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厳寒の地、山幸ブドウ成功物語

更新日:2022年5月20日

皆様こんにちは。葡萄の騎士の会の顧問 剣持春夫です。


新コロナウィルス感染拡大のため、大変な思いをされていると思いますが、早期の終息を切望しているところです。

2020年11月、北海道池田町ブドウ・ブドウ酒研究所の黒ブドウ品種山幸(やまさち)が念願叶い、O.I.V.(世界ブドウ・ワイン機構)に登録が出来たことをご存じだと思います。日本人として、また日本ワインの愛好家として大変に誇りに思います。


そこで、当会も日本のワインを盛り上げる意味で「山幸セミナー」を開催する計画をしていましたが、今回2度目の緊急事態宣言が発令され,残念ながら延期せざるを得ませんでした。今後、拡大が収束した時を見計らって再度企画したいと思っております。


開催をする前に山幸ブドウ品種とは具体的にどのような品種なのかを前もってある程度予習をしておくことにより、興味が湧き理解度が深まると思い、まとめ上げた次第です。

タイトルは「厳寒の地、山幸ブドウ成功物語」とさせていただきました。

まずは山幸ブドウを開発した北海道池田町におけるワイン造りと北海道産ワインの現状をお知らせたいと思います。

近年、「日本のワィン」が以前より注目を集め、新しい生産者も増えているのはご存じだと思います。


北海道池田町の「十勝ワイン」は自治体ワインのパイオニアですが、その歩みは多くの苦労の連続と創意工夫の積み重ねによって達成されました。約60年の取り組みの歴史を下記の通りご紹介します。

1.O.I.V.とは?

・International Organization of Vine and Wine(国際ブドウ・ワイン機構)はフランス・パリに拠点を置く国際組織。

・47カ国が加盟し、世界のワイン生産量の85%は加盟国で生産されている。

・ワインの醸造のみならずブドウ栽培、ラベルの表示などを決定しており、加盟国のみならず業界に広く影響を与えている。

・EU域外で生産されたワインの品種表示はブドウ品種がOIVなどの国際機関のリストに記載されていることが必要(EU委員会規則)

・「山幸」をEU加盟国に輸出した場合は品種名をうたえなかったが、今後は「Yamasachi」と品種名を表示しEUなどOIV加盟国へ輸出することが可能。

・日本での登録品種は「甲州」、「マスカット・ベーリーA」に続き3品種目となる。

・GI北海道(地理的表示北海道)の中の独自品種では初めての登録となる。

2.池田町ブドウ・ブドウ酒研究所


1963年(昭和38年)に日本国内初の自治体によるワイナリーとして始まった。独自の品種を開発し、酸味豊かなブドウで長期熟成タイプのワインを中心に製造している。池田町の企業会計に計上されて独立採算の形で経営している。利益の一部は一般会計などに繰り出しており、町の経済・財政・産業に貢献している。池田町ブドウ・ブドウ酒研究所(通称「池田ワイン城」)には見学コースがあるほか、ワインをはじめ地元の特産品を取り揃えたショッピングエリアやレストランがあり、観光地になっている。また、『池田町秋のワイン祭り』などのイベント会場になっているほか、ワイン城から眺める景色は「日本の夕陽百選」に選定されている。

3.池田町ワイン造りのトリガー

池田町は北海道東部にある十勝平野のほぼ中央に位置し、農業を基盤としており、人口は約

6,500人の「町」である。

1950年代、町は度重なる地震や冷害による凶作に見舞われ、町財政がひっ迫し「赤字再建団体」の指定を受けることになってしまった。

その後、財政再建に努めながら新しい産業を模索しながら注目したのが「ブドウ栽培による農業振興」であった。

この発案者で執行したのが故、丸谷金保氏で、(のちに参議院議員)十勝ワインの生みの親でもあり、1970年代日本ソムリエ協会(旧名)でも顧問になられ、いろいろとソムリエ協会にもご協力をいただいておりました。

この池田町の周辺では秋になると山ブドウが多く実り、「冬の厳しい池田でもブドウ栽培が出来る」と信じ、1960年丸谷町長の考えに賛同し、町内の農村青年によって「ブドウ愛好会」が結成され、厳寒地でのブドウ栽培が始まった。

その後、1963年には果実酒類製造免許を取得し、国内初の自治体経営によるワイン醸造を手掛けることとなった。

1964年には池田町ブドウ・ブドウ酒研究所が設置され、独自品種の栽培研究と共に現在35haに及ぶ直営圃場の管理、多くの酒類の開発製造、販売を手掛けている。


4.厳寒地でのブドウ栽培

十勝地方は元々国内を代表する穀倉地帯である。気候的に夏場は最高気温が高く、気温の日較差が大きく、秋の収穫期にかけて降水量が少ない事から健全状態で収穫できるが、12月~3月までの月平均気温は氷点下となり、1~2月は晴天率が高く放射冷却現象により最低気温-20℃以下となる事が続くため果樹栽培は大変難しいとされていた。


一方、北海道の他のブドウ栽培地の多くが豪雪地帯に位置し、降雪がブドウの越冬を手助けしているのに対して十勝地方は降雪量が少ない事から寒風が吹きつけられ、凍結乾燥し、枯死してしまうことがある。また、春から秋の積算温度の低さは大きなハンディキャップとなり、十勝地方は決してブドウ栽培に臨まれた環境とは言えない。

 

①ブドウの独自の越冬方法の確立

栽培方法は垣根仕立てとし、高品質、省力化栽培を追求するため日照量と温度を十分に利用できる垣根仕立ての低姿片側コルドンとしている。また、冬期はブドウ樹を土中に埋めることにより樹を保温し、凍結乾燥(枯死)を防いでいる。

これにより、厳寒地でのブドウ栽培は可能になったものの、春には培土した土は取り除く必要があり 、この越冬作業の大変さによりブドウ栽培が広がらないと言った課題に取り組むこととなる。


培土作業 → 排土作業



②寒さに強い品種改良

北海道を代表とするブドウ栽培地である、後志地方、余市町の年間平均気温の8.3℃と比較し、池田町は5.8℃と明らかに低い。冬期間の-20℃を下回る最低気温の低さが影響している。最低気温が低く降雪量が少ないハンディキャップを独自の越冬方法で乗り切ったものの春から秋までの積算温度低さも課題であった。

また、アメリン&ウインクラーによる有効積算温度(Σ(平均ー10℃>0℃)は 1,000℃前後のRegionⅠで該当する北海道内の中にあっても、欧州品種の生産には余市町など北海道主要ブドウ栽培地が1,200~1,300℃であるのに対し、池田町では1,000℃程度と積算温度が不足し、地球温暖化が進んでると言っても「ハイブリッド種」等にほぼ限定されている。一般的な欧州品種の生産にはまだまだ積算温度が不足している。このため池田町では 「ヴィ二フェラ種」ではなく早熟のブドウ品種改良に長年取り組んできた。

③池田町のブドウ栽培の扉を開いた清見の成功


1961 年に 40種 5,000本の苗木を導入したが、ほとんどが冬の凍害で枯死。そのうち生き残った数品種のほとんどが1964年の夏の冷害で枯死。

そのうち生き残った 数位品種のほとんどが1964年の夏の冷害で枯死。

さらに生き残った「 セイベル 13053 」 をクローン選抜し、1969年「清見」と命名。通常、開花から収穫まで100~110日かかるが、清見は90日で収穫できる。

1966年、フランスで育成された「セイベル13053」という極早世品種を導入しクローン選抜し清見を開発した。

池田町の寒冷な気候でも十分に育つ、正に冷涼な気候でも適したブドウである。

しかし清見でも、培土、排土作業を行う必要があり、すべての面で満足するものではなかった。

『交配』母本を除雄して父本の花粉を受粉させる


除雄(6月下旬~開花始期)→ 花冠外し → 雄すべのみ取り除く



袋掛け(隔離)



受粉



④清舞、山幸への成功

1972年から培土作業が必要のない耐寒性ブドウの開発を進めてきたが、十勝地方に自生する山ブドウ(アムレンシス亜系)はどんな寒い冬、-35℃にも耐えうる特性を活かし、その山ブドウとヴィニフェラ種やハイブリッド種と交配することにより、耐寒性が高く、かつブドウの熟度が高まりワイン用原料として高品質となるブドウの育種に取り組み、気が遠くなるような約21,000種を超える交配の結果の中から「清舞」「山幸」と言った赤ワイン用品種をそれぞれ品種登録し、ワイン用原料として成功したわけである。

A 清舞 (きよまい)交配年:1975年

I K- 567

清見× 山ブドウ(トツタベツ) ♂


ワインの味わいの特徴

独自開発した耐寒性交配品種のうち、母親である清見種譲りの爽やかな酸味と軽快な味わいが特徴で、近年品質が著しく向上している。

 

B 山幸(やまさち) 交配年:1978年


I K-3197

清見× 山ブドウ6号園20 ♂

耐凍性・耐寒性:-31.0℃

平均糖度:23度

PH/ 3.0程度

収穫量:700kg/ 10ha (180本換算)

開花期: 6月下~7月上旬

収穫期: 10月上旬

最大メリット

耐寒性・耐凍性に優れ、冬期間の枯死防止のために対策をする必要がなく、栽培農家の労力を軽減できるなど、栽培適正に優れ、有効積算温度が低くても熟すことが出来る。


ワインの味わいの特徴

父系である山ブドウ譲りの草木系の果実香、力強い酸味と野生味溢れる味わいと個性が秀でるワイン。フレンチオークで一年間じっくりと熟成させ瓶詰め。

 

5.酸味を活かした十勝ワインのワイン造りと将来性

冷涼な気候下では官能的にシャープな酸が際立ち、「リンゴ酸」の含有量が自然と多くなる。白ワインはその酸を活かしフルーティな辛口タイプとし、赤ワインはその酸の強さ故、熟成タイプのワインを目標としている。

また、リンゴ酸を少なくするマロラクティック発酵(MLF)も当初、酸度が強すぎて自然的には不可能であったが、研究を進めていくと、自然発酵的によるMLFと市販のMLF乳酸菌との併用で減酸が出来るようになっている。

一方、日本人のワインに対する舌の体験が成熟するにしたがって酸が高くても好みの変化により対応でき、また健康趣向も相まって一部で酸の高い山ブドウから造られたワインコンクールなどが開催され、ブームとなってきているところもあり、これら酸の高いワインを含めて期待できる時代に入ってきている。

6.最後に

一つの事を成功させるということはそのゴールにたどり着くまで必ず乗り越えなければならない難問がありそれを解決打破して初めて目的を達成できるのだと思います。

いわゆる、「ローマは一日にしてならず」ではないでしょうか?


この山幸ブドウ成功物語も成功するまでどれだけの試練と苦労をたどってきたのか計り知れません。 そう言う意味では他の日本のワイナリーでも100年以上も前から築き上げたワイナリーが継続し存在していますが、全く同じような労苦を重ねてきたと思うと頭が下がる思いです。

今回のこのレポートの情報をご提供いただきましたのは、私が1988年から勤務しておりましたシェラトン・グランデ・トーキョー・ベイ・ホテル以来の顧客であり、北海道ワインに造詣の深い小林ご夫妻を介しまして、池田町の安井美裕町長(元池田町ブドウ・ブドウ酒研究所長/山幸の開発にも関わる)、池田町ブドウ・ブドウ酒研究所 鈴木様から頂戴したものです。


この紙面をお借りしまして感謝申し上げます。

数年後、葡萄の騎士の会では「北海道ワイナリーツアー」も企画予定をしておりますので池田町の安井町長にお会いできるかもしれません。その時の再会を楽しみにしています。


それでは、新型コロナ禍に負けずお過ごしいただきまして、3月~4月に予定をしております「山幸ワインセミナー」を楽しみにお待ちください。



葡萄の騎士の会 顧問

マスターソムリエ(J.S.A)


剣 持 春 夫



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